【書評】芥川賞受賞作『コンビニ人間』の主人公古倉恵子ははたして変人か?(村田沙耶香)

コンビニ人間の表紙読書/reading

芥川賞受賞作『コンビニ人間』(村田沙耶香)を読みました

こんにちは,『rinkuru/リンクル』です。

今回読んだのは,2016年に芥川賞を受賞した作品でもある,『村田沙耶香』さんの小説『コンビニ人間』です。

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著者である村田沙耶香さんは三島由紀夫賞をはじめたとした幾つかの受賞経験のある人気作家さんですが,週3回ほどのコンビニバイトを継続していたんだとか…

この小説を一言であらわすと,「ちょっと変わった人がコンビニバイトをする話…」とはなってしまうものの,自分の生き方を考えさせられるような深い描写が多く,芥川賞を受賞したのも納得の作品です。

『コンビニ人間』(村田沙耶香)について

コンビニ人間の厚み
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161ページしかない短い作品なのでサクッと読めてしまうのも良いところですね。半日もあれば十分読み切ることができると思います。

作品(コンビニ人間/村田沙耶香)の概要

『コンビニ人間』について

作品名コンビニ人間
著者村田沙耶香
初版2016年
出版社文春文庫
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2016年に第155回芥川賞を受賞し,様々な言語にも翻訳されている作品です。

『村田沙耶香』について

名前(なまえ)村田 沙耶香(むらた さやか)
生年月日1979年(42歳)
受賞歴群像新人文学賞優秀賞(2003年)
野間文芸新人賞(2009年)
三島由紀夫賞(2013年)
芥川龍之介賞(2016年)
代表作品『ギンイロノウタ』(2008年)
『しろいろの街の、その骨の体温の』(2012年)
コンビニ人間』(2016年)

千葉県出身の小説家さんだそうで,大学時代からコンビニエンスストアでのアルバイト経験があったようです。

作品(コンビニ人間/村田沙耶香)のあらすじ

裏表紙のあらすじは以下のとおりです。

「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと,私は叫ぶ。古倉恵子,コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ,夢の中でもレジを打ち,「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて…。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。

小説『コンビニ人間』

この世界の『普通』が分からない,『古倉恵子』という30代半ばの女性が主人公の物語です。

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30代半ばなのにコンビニのアルバイト,しかも結婚していない…と聞くと,「なにか事情があるのかな」と考えてしまうのが世間一般的な認識だと思います。

そんな変人主人公『古倉恵子』が,いたって普通なアルバイトの一つであるコンビニエンスストアで働く日常が描かれています。

ここだけは見逃せない『コンビニ人間』(村田沙耶香)の見所(ネタバレ注意)

コンビニ人間の表紙

※ここからは一部ネタバレを含みます。ご注意ください。

変人コンビニアルバイト店員『古倉恵子』の生態

主人公の『古倉恵子』の魅力的なキャラクター性が本作最大の見所です。

結婚も就職もせず,コンビニで18年間もアルバイトを続ける古倉恵子の変わった人間性は幼少期の頃からのものでした。

古倉恵子の幼少期の変人エピソードにはこんなものがあります。

  • 公園で死んでいた小鳥を見て,焼き鳥好きなお父さんのために,家に持って帰って焼いて食べようとする。
  • 体育の時間にはじまった取っ組み合いの男子の喧嘩を止めようと,持ってきたスコップで頭を殴る。
  • 教室でヒステリーを起こした女の先生を黙らせるために,先生のスカートとパンツを下してしまう。
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とんでもないエピソードの数々ですね…」

古倉恵子は『普通』が分からない人間です。

周りとは違う自分を心配してくれる両親や,二つ下の普通の妹の姿を見て,自分の異常性には気づいていたし,社会に出るためにも治さなくてはいけない自覚はあったようですが,そのまま大人になってしまったのでした。

そんな古倉恵子が大学時代にはじめたのが『コンビニエンスストア』でのアルバイトです。

普通』が分からない古倉恵子にとって,制服から動き方,声掛け…まで全てがマニュアル化されたコンビニのアルバイトは願ってもないものでした。

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幼少期から『普通』を目指して,周りを伺ったり,皆の真似をしてきた古倉恵子にとって,「自分を出す」ことが必要とされないコンビニは比較的過ごしやすい環境だったのかもしれません。

コンビニアルバイト店員として過ごす初日にこんなことを思ったようです。

そのとき,私は,初めて,世界の部品になることができたのだった。私は,今,自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が,この日,確かに誕生したのだった。

小説『コンビニ人間』
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小説を読んでいると,この表現が古倉恵子にとって決して大げさなものではないことが分かります。

この日から,古倉恵子にとっての『世界』=『コンビニ』となります。

そのことを表す面白い描写がいくつかありますので,ご紹介します。

今の「私」を形成しているのはほとんど私のそばにいる人たちだ。三割は泉さん,三割は管原さん,二割は店長,残りは半年前に辞めた佐々木さんや一年前までリーダーだった岡崎くんのような,過去のほかの人たちから吸収したもので構成されている。

小説『コンビニ人間』

喋り方や普段着までも,同僚の店員たちの癖をコピーすることで,どうにか過ごしているわけです。

バックルームに置きっぱなしになっていたポーチの中の化粧品の名前とブランドを盗み見る…

語尾を伸ばしてだるそうに話す泉さんと,スタッカートのような少し弾んだ喋り方をする菅原さんの,喋り方をミックスして会話をする…

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こういった異常な習慣も,古倉恵子にとっては,ありふれた日常の一部であることを面白く感じました。

朝,こうしてコンビニのパンを食べて,昼ご飯は休憩中にコンビニのおにぎりとファーストフードを食べ,夜も,疲れているときはそのまま店のものを買って帰ることが多い。2リットルのペットボトルの水は,働いている間に半分ほど飲み終え,そのままエコバックに入れて持ち帰り,夜までそれを飲んで過ごす。私の体の殆どが,このコンビニの食糧でできているのだと思うと…

小説『コンビニ人間』

これは古倉恵子がただ食生活に無頓着というわけではありません。

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コンビニの食べ物だけを摂取して過ごすことで,『コンビニ』という『世界』に彼女なりに溶け込もうとしていたのではないかと思います。

商品の売れ行きに影響するので,天気予報や気温の変化に気をつかう…

健康に出社するために夜更かしをする…

古倉恵子はコンビニを媒体とすることで,はじめてコンビニの外の世界『外界』と連絡がとることができるのです。

『古倉恵子』には,タイトルにもある『コンビニ人間』という言葉がまさにぴったりな人間です。

読者である私たちも,いつもの自分の視点から離れて,『古倉恵子』という変人コンビニ店員の視点からこの世界を眺めて見ることで,これまで意識してこなかった『普通』とは何かということを考えさせられます。

『古倉恵子』ははたして変人か?

ここまで『古倉恵子』の変人コンビニ店員としての異常性について紹介してきたので,もうその答えは出ている…そう

これまで変人コンビニアルバイト店員『古倉恵子』について紹介したので,もうその答えはでているじゃないか…そう思う方もいるかもしれません。

たしかに古倉恵子は『普通』の人から見れば,変わっている部分があることは否定しません。

それでも,この作品を読み進めていくと”『普通』とは何か?”ということを考えずにはいれません。

私は『コンビニ人間』を読んで,この2つのことを考えました。

  1. 環境ごとにそれぞれの普通や当たり前がある。
  2. 環境しだいで人は簡単に変われる。

まずは”1,環境ごとにそれぞれの普通や当たり前がある”についてです。

『普通』は一定のモノではありません。

マニュアル通りに働くことが良しとされる『コンビニ』のような仕事場もあれば,常に考えながら臨機応変に働くことが求められる仕事場もたくさんあります。

それは仕事という括りだけにおさまるものではありません。

例えば,『タバコ』は世間一般からすると,「健康によくないから」と否定的に思われ,多くの人が普通は吸わないことを良しとする傾向にあります。

私自身,健康のためにも,タバコは吸うべきではないと思いますし,これからも吸うつもりはないはありませんが,同じく健康に良くないと分かっているはずの『夜更かし』や『糖分の過剰摂取』はついついおこなってしまいます。

こんなふうに『普通』は揺らぎやすいものなのだと改めて感じました。

次に”2,環境しだいで人は簡単に変われる”についてです。

『古倉恵子』の喋り方が,他の店員の喋り方をコピーしたものだと聞いて,異常だと感じた人もいるかもしれませんが,本当にそうでしょうか?

流行語大賞なんて言葉があるように,その時々で,社会全体から好まれる言葉は常に変わっていますし,「方言が移った」なんて体験談もよく聴きます。

私は小学校3年生のときに,県をまたぐ転校を経験していますが,その時には,活発で明るかった性格が内気でおとなしい性格に意識せずとも変わってしまってことを記憶しています。

環境に順応して人が変わる…それはそんなに珍しいことではないのだと思います。

この2つのことから,私が何を言いたいかというと,『古倉恵子』が変人であることを間違いないにしても,私たちは誰しもが『古倉恵子』と同じような変人的な側面をもっているということです。

『普通』だと日頃から思っていることが,その環境下だけで通用する『普通』,あなたにとっての『普通』である可能性を忘れてはいけません。

そして,自分とは違う他者を異常だ…と批判してしまうことの危険性を肝に命じておかなければいけません。

まとめ~”普通”とは何かを問われる小説『コンビニ人間』~

村田沙耶香』の小説『コンビニ人間』の書評,いかがでしたか?

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コミカルな内容で短時間でも読めることが魅了な小説ですが,考えさせられることがたくさんありました。

今回,私が読んで感じた『普通』の見解について紹介しましたが,その捉え方は様々だと思います。

ぜひ一度ご自身でも読んでみて,「『古倉恵子』は変人なのか?」「『普通』とは何なのか?」…という問いに対する自分なりの答えを見つけてみてください。

  • 短時間でサクッと読める小説を探している
  • 芥川賞を受賞するような人気小説を読んでみたい
  • 読んでいて考えさせられるような小説が好きだ

こんな方には特にオススメしたい作品です。

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