【書評】実話に基づいた小説『美しき愚かものたちのタブロー』は名画と感動でいっぱいの一冊だった(原田マハ)

美しき愚かものたちのタブロー表紙読書/reading

小説『美しき愚かものたちのタブロー』(原田マハ)を読みました

こんにちは,『rinkuru/リンクル』です。

今回読んだのは,小説家からキューレーターまで幅広い分野で活躍している『原田マハ』さんの小説『美しき愚かものたちのタブロー』

美術品等の研究を行うキューレーターとしての異色の経歴をもつ原田マハ作品では『タブロー = 絵画』が作品の主軸となることがしばしばあります。

今回の作品は,『松方コレクション』と呼ばれる絵画,そしてその絵画が展示されることとなる『国立西洋美術館』ができるまでの,実話にもとづいたお話です。

戦闘機ではなく,絵画(タブロー)を。

戦争ではなく,平和をー。

小説『美しき愚かものたちのタブロー』

激動の時代を乗り越え,本モノの西洋絵画を有する美術館創設のために命をかけた男たちの物語に感動すること間違いなしです。

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第161階直木賞候補となった作品です

『美しき愚かものたちのタブロー』(原田マハ)について

美しき愚かものたちのタブロー横から
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『471ページの長編小説』かつ『絵画』『戦争』というテーマからハードルが高そう…と思われがちですが,全然そんなことはなかったです!

作品(美しき愚かものたちのタブロー/原田マハ)の概要

『美しき愚かものたちのタブロー』について

作品名美しき愚かものたちのタブロー
著者原田マハ
初版2019年
出版社文芸春秋・文春文庫
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2006年に『カフーを待ちわびて』ににて作家デビューをはたした原田マハさんの作品の中ではかなり新しめのモノだといえますね。

『原田マハ』について

名前(なまえ)原田マハ(はらだまは)
生年月日・年齢1962年7月14日・60歳
職業小説家・キューレーター・カルチャーライター
代表作『本日は,お日柄もよく』(2010年)
『楽園のカンヴァス』(2012年)
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やはりひときわ目をひくのは職業の小説家・キューレーター・カルチャーライター…という部分ですね。

作家としてデビューすることとなる2006年までに,広告プロダクション,マリムラ美術館(現在は閉館),アートマネジメント学校,伊藤商事…など様々な肩書でお仕事をされてきたようです。

そういった一風変わった経歴が,史実を基としながらも,物語として深みのある原田マハ作品の原動力となっているのではないでしょうか。

作品(美しき愚かものたちのタブロー/原田マハ)のあらすじ

裏表紙のあらすじは以下とおりです。

「日本にほんものの美術館を創りたい」。その飽くなき夢を実現するため,絵を一心に買い集めた男がいたー。だが,戦争が始まり,ナチスによる略奪が行われ,コレクションは数奇な運命をたどることに。国立西洋美術館の鍵であり,モネやゴッホなどの名品を抱く”松方コレクション”流転の歴史を描いた傑作長編。

小説『美しき愚かものたちのタブロー』

『松方コレクション』『国立西洋美術館』はもちろん,登場人物である美術史研究家『田代雄一』,実業家『松方幸次郎』,当時の内閣総理大臣『吉田茂』まで,すべてが実在しています。

※作中で唯一,美術史研究家”矢代幸雄”さんだけ,偽名の”田代雄一”として登場しています。

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史実に基づきつつも,登場人物の魅力をより引き出すために著者『原田マハ』さんなりの解釈を記した一冊だといえますね。

ここだけは見逃せない『美しき愚かものたちのタブロー』(原田マハ)の見所(ネタバレ注意)

美しき愚かものたちのタブロー表紙
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表紙に描かれているのは作中のにも登場するゴッホの名作『アルルの寝室』です。

※ここからは一部ネタバレを含みます。ご注意ください。

激動の時代に確かに存在した登場人物たち

  • 田代雄一 西洋美術史家・評論家。戦禍の時代に,松方が美術品を購入する際のアドバイザーも務めた。戦後,フランスに残された『松方コレクション』の寄贈返還をめざす。
  • 松方幸次郎 実業家・政治家。一枚のポスターをきっかけに,日本に美術館を創設することを決心する。コレクターとして『松方コレクション』を生み出した。
  • 吉田茂 当時の内閣総理大臣。長い間行方知らずだった『松方コレクション』の日本への返還,そして,今は亡き松方の夢であった美術館創設のために田代に協力を仰ぐ。
  • 日置釭三郎 元日本海軍大尉。松方が社長を務める川崎造船所の技師として雇われた過去を持つ。松方の命を受け,単身フランスに残り,戦禍の中,『松方コレクション』を守り抜く。

主な登場人物はこの4人ですが,その他の登場人物たちも激動の時代に確かに存在しました。

これらの登場人物たちに共通する願いが,フランスに残された『松方コレクション』を日本に返還してもらうこと,そして,日本人が本モノの西洋美術を見ることができる美術館を創設することです。

彼らは,不要不急そのものである絵画(タブロー)なんかに命をかけてしまった意味では『愚かもの』だと思われて仕方がない人生を歩んできました。

それでも著者の原田マハが,彼らに最上級の賞賛の意をこめて『美しき愚か者』と呼んだのかがこの小説を読めばきっとわかるはずです。

実在する名画とその素晴らしさを伝える原田マハの表現

日本に本格的な美術館を創立することを目的に集められた『松方コレクション』はもちろん,本書のいたるところに実在する絵画(タブロー)が登場しています。

『松方コレクション』の中核をなす3つの絵画(タブロー)

写真の順に作品名および作者は以下のとおりです。

  • 『睡蓮 柳の反映』(クロード・モネ)
  • 『アルルの寝室』(フィンセント・ファン・ゴッホ)
  • アルジェリア風のパリの女たち』(ピエール=オーギュスト・ルノワール)
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モネ・ゴッホ・ルノワール…と芸術に詳しくない人でも,一度は耳にしたことのあるような超有名な画家の作品が『松方コレクション』には確かに存在していました。

数千点にものぼるとされる『松方コレクション』。

その中でも特に名画だとされる,この3作品をフランスから日本へ『寄贈返還』してもらえるか…というテーマで物語は展開されていきます。

こういった名画と松方幸次郎と田代雄一のコレクタータッグが出逢うまでのエピソード,当時まだ生きていたクロード・モネとの対話…を示した『原田マハ』さんによる豊かな描写。

『原田マハ』さんにしかできない絵画(タブロー)の表現の仕方は間違いなく,『美しき愚かものたちのタブロー』の見所の1つです。

その一例ではありますが美術史家・評論家である田代雄一とゴッホ『アルルの寝室』との出逢いの描写を紹介します。

「…なんて言うか…私は…いや,何を言っても追いつかない。私は,感電した。フィンセント・ファン・ゴッホのいう名の雷に」

小説『美しき愚かものたちのタブロー』

原田マハさんならではの『雷』という表現。

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ゴッホの名画『アルルの寝室』を初めて目にした田代の,驚きと感動がこの『雷』という一言に見事に集約されていますね。

本来は美術作品を言葉で語るはずの西洋美術史家・評論家も,本モノの名画の前では言葉を失ってしまう…

名作といわえる絵画(タブロー)が何なのかが表現されているように感じました。

優れた直感を備えたコレクターとしての松方の歩み

実業家・政治家として活動してきた『松方幸次郎』。

もともと絵画(タブロー)への関心などこれぽっちもなく,知識も持ち合わせていませんでした。

だからこそ名画購入のためのアドバイザー『田代雄一』が必要だったわけですが,数多くの絵画(タブロー)と触れ合う中でその感性を磨いていく様子がうまく描写されています。

そんな松方の成長がうかがえるのが,ドニ『シエナの聖カタリーナ』との出逢いです。

『国立西洋美術館』より
  • 『シエナの聖カタリーナ』(モーリス・ドニ)

パリの画廊でこの絵画(タブロー)に出逢った松方は,珍しく自らの感想を言いました。

「実におもしろいですな。…正直に言いますと,私は,最初この画家がよくわからったのですが…一枚,二枚とタブローを見るようになって,だんだんと好きになりました。まず,とにかく明るいのがいい。そして,明るいだけではなくて,この画家は,深い。とても。」

小説『美しき愚かものたちのタブロー』
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目の前にある名画への賞賛の言葉が見つからない松方なりに,自分が素晴らしいと感じた感性を精いっぱい言葉にしようとする意志がひしひしと伝わってきますね。

『美しき愚かものたちのタブロー』の中で,松方が絵画(タブロー)の鑑賞の仕方について『考える』『感じる』と分類する場面があります。

田代のようにその絵の描かれた背景や技法を知り,『考えて』絵画(タブロー)を評論することは松方にはできません。

松方が優れていたのは絵画(タブロー)を『感じる』力だったわけです。

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コレクターとして本場の絵画(タブロー)に触れ合う中で,『鋭い直感を備えたコレクター』として成長していったようですね。

こんなところにも絵画(タブロー)が!?

これまで『美しき愚かものたちのタブロー』の中に登場する絵画(タブロー)についていくつか紹介してきましたが,少し特殊な形でも絵画(タブロー)は登場しています。

松方亡き後も単身にフランスに残り,全てをなげうって『松方コレクション』を守り抜いた『日置釭三郎』

変わり果てた姿で32年ぶりに田代に再開し,久しくまともな食事を口にすることとなった日置の食べ物への執着を目の当たりにした田代はこう思いました。

たとえ戦時中の物資不足にあえいだ時期であっても,こんな風にがっついてものを食べる日本人を見たことがなかった。ほんの瞬間,田代の胸中に,ゴヤのの絵〈我が子を食らうサトゥルヌス〉の暗い画面がふっと浮かんで消えた。

小説『美しき愚かものたちのタブロー』
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きっとものすごい絵なんだろうな…

なにげない表現ながら,想像がかきたてられ,気になってインターネットで検索をかけてみたところ,こんな絵が出てきました。

我が子を食らうサトゥルヌス
『ウィキペディア』より
  • 『我が子を食らうサトゥルヌス』(フランシスコ・デ・ゴヤ)
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まさしくものすごい絵でしたね…

たった一言ではありますが,絵画(タブロー)を比喩に用いることで,日置の長年の苦労をこれでもかと表現されています。

このような表現の仕方は普通の小説家では中々できません。

美術館やアートマネジメント学校での勤務経験を経て,絵画(タブロー)への知見を深めてきた『原田マハ』さんならではの,表現の仕方といえるのではないでしょうか。

まとめ~アート小説が読みたいなら『美しき愚かものたちのタブロー』を読め!~

『原田マハ』の小説『美しき愚かものたちのタブロー』の書評,いかがでしたか?

rinkuru
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ただ読む…だけでももちろん面白いですが,実在する人物や絵画(タブロー)の背景について知った上で読むとより楽しめる本だと感じました。

本記事の中にも,『美しき愚かものたちのタブロー』の中にも登場した絵画(タブロー)の写真を掲載していますので,ぜひ活用しながら読み進めてみてください。

  • 原田マハならではのアート小説に興味がある
  • 芸術と小説がどちらも好きだ
  • ちょっと変わったジャンルの小説にもチャレンジしてみたい

こんな方には特にオススメしたい作品です。

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